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池野
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こんにちは。ようこそお越しいただきました!
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寺田
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よろしくお願い致します。
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池野
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今回、寺田さんのお気に入りの場所でお話させてくださいとリクエストさせていただいたのですが、コンラッド東京を選ばれましたね。
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寺田
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2005年、東京に新しいホテルができ始めていた頃、いわゆるホテル戦争っていわれているのですが、こちらがその第1号だったんです。当時、工事中でヘルメットをかぶって見学させてもらったことがある思い出の場所です。今いる28階からの眺めが素晴らしくて、浜離宮や東京湾を見たときにすごいと思ったんですね。それまでの都内のホテルは大きなビルに囲まれていましたから。これは新しい時代が来たと。
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池野
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ロケーションにまず魅力を感じたのですね。
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寺田
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それとお部屋なんですが、それまで外資系はコンテンポラリーでスタイリッシュ、またはヨーロピアンエレガンスみたいな演出のデザインのホテルばかりだったんです。こちらはお部屋が日本の和を取り入れている。今でこそ和モダンと言われるスタイルがありますが、コンラッド東京がその走りなんです。和のテイストの色を使ったり、あとはモチーフに小さな梅の花や鳥をあしらったり。そういう意味でここはランドマーク的なところ、東京のホテルを語る中で、やはり外せないですね。
28階からの眺め
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池野
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寺田さんといえば「年間150日海外暮らし」というのが枕詞みたいになっていますよね(笑)
どんなきっかけでトラベル・ジャーナリストになられたのですか。
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寺田
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トラベル・ジャーナリストとして25年くらいになりますが、前職は旅行会社でオーストラリアやモーリシャスなど南のリゾートで仕事をしていました。
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池野
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南のリゾート、いい響きですね。そこからどのように展開していったのですか。
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寺田
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子供の時から書くというか・・・本が好きで。大学時代は図書館の司書になろうと思っていました。とにかく活字に携わる仕事がしたくて。その中のひとつの夢として自分で物を書くことにもチャレンジしてみたかったんです。ただ、大学の時にウィンドサーフィンを始め、その延長線で海外のリゾートで働くようになりました。それでも書くという仕事を一度は経験したくて日本へ戻り編集を覚え、フリーランスとして独立したというわけです。紹介してもらった編集プロダクションがたまたまガイドブックを作っていたんです。最終的にはそれまでの経験と自分がやりたかった物を書くという仕事が融合しました。そして、ありがたいことにこうして旅の文章をかかせてもらっています。
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池野
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森さん初めまして。4月のメンドーサでの世界最優秀ソムリエコンクールお疲れ様でした!今日お会いできてとても嬉しいです。
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森
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スタッフからお話をうかがっていて今日お目にかかるのを楽しみにしていました。
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森
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ワインの温度が気になったので、ちょっと先にテイスティングだけさせていただきました。
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池野
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シャルドネ2014は、いかがでしたか。
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森
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しっかりと後味のひっぱる酸がありますね。それとやっぱり肉付きの良さに加えてすごくタイトな感じがします。リリースはされているのですか。
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池野
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6月18日になります。
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森
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ちょっと落ち着かせて、ゆっくり楽しみたいワインですね。
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池野
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どのくらい落ち着かせたらいいと森さんは思われますか?
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森
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半年くらいはしっかり置いておきたいですね。すぐには売りたくない…ここがジレンマで(笑)。リリースされてすぐ飲みたいって方がいらっしゃるので、どうしてもリストにのせざるをえないですけど、親心としてはもうちょっと時間を置いてお出ししたいですね。
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池野
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シャルドネもじっくり瓶熟成すると一段と違った美味しさがありますので余裕のある場合はぜひそうしていただくと嬉しいです!
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寺田
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お料理は何があいそうですか?
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森
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池野さんのワインはミネラルがしっかりとあるシャルドネですので、中華「チャイナブルー」の料理をおすすめしております。アジアン・テイストでいろんな香草だったりスパイスを使うのですが、このタイプのシャルドネとの相性がよく、食が進むと思います。和食は間違いないとは思います。でも我々の、モダンチャイニーズと呼んでおりますが、そちらの方が相性がいいと思います。
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寺田
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こちら、チャイナブルーのシェフのお料理は素晴らしいですよ!
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森
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ありがとうございます。では、この後出張がございまして失礼させていただきます。ごゆっくりお過ごしください。
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池野
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お忙しい中このためにわざわざお越しいただきましてありがとうございます!
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池野
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森ソムリエにサーブしてもらえるなんて嬉しいサプライズでしたね。寺田さんワインどうぞ。最初のひと口は酸味を感じ過ぎてしまうので次に口がワインに慣れたところで味わってくださいね。
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寺田
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あ、全然違いますね。
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池野
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そうなんです。コンクールの審査員をしているときもふた口目で判断しているんですよ。
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寺田
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すごい、このワインを作った人にそうやって教えてもらえるなんて感激です。
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池野
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いえいえ。話を戻しますが、最近では『泣くために旅に出よう』そして最新刊『フランスの美しい村を歩く』を出されていますね。最初の『ホテルブランド物語』は、カタログ的にもビジネス書的にもとらえられる内容ですが、これを書こうと思った動機はなんでしたか。
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寺田
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書いたのはもう10年前ですけれど、仕事柄一流ホテルの総支配人(GM=ジェネラル・マネージャー)やコンシェルジュ、シェフ、いろんな方と話をする機会があって一流と高級との違いはどこにあるんだろうと思ったんです。
お金があれば豪華な立派な箱は作れると思うんです。だけれども、それだけでは一流には足りない。一流だと思えるものは何かなって突き詰めたら、やっぱり人だったんです。今でこそおもてなしとか、ホスピタリティーとか当たり前のように使っていますが、その頃はまだ業界用語でしかなく、やっぱり原点はそこだと思ったんですね。ホテルのブランドごとに個性が見え隠れしていたので、きちんと形にしたいと思ったのが動機でした。オリンピックを前に今また、東京の開発が進んでいますが、10年前も同じ様なことが起こっていた。その主役が外資系ホテルだったんです。だから既存のホテルとはどう違うかをきちんとお伝えしたいなっていうのがあったんです。
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池野
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一流と高級の違い、読んでいてすごく伝わりました。
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寺田
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どんなに素晴らしい建物でもちょっと違うなっていうところがありますよね。突きつめると人で、一流のホテルには素晴らしい一流のスタッフがいます。さきほどの森さんもそうですし、池野さんのような生産者でもそう。どんな立場、どんな仕事でもやはりその人がどれだけ志があって、自分が作りたいとか、自分が課せられた仕事に対して責任感を持ってやっているかっていうところだと思っています。
もうひとつは、一流のホテルで大きいのは、ここで働いているっていうことの誇りですね。
特に海外のホテルだとよくわかります。例えばシンガポールのラッフルズとか、香港ならペニュンシュラなど必ず名前が出てくる名門ホテルで働いているスタッフたちの、そこで働くことに対する誇りというか喜び。世界中から来るすばらしいお客様を自分がお世話をしているという自負。そこから生まれるホテルへの忠誠心というものを強く感じます。ホテル側もそれをきちんと育てているというのが素晴らしいところだと思いますね。
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池野
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ご紹介のなかで教育にすごくお金をかけているホテルや社員食堂がホテル並みの豪華さだったり。ま、ホテル内なのでそう驚くことでもないのかもしれませんが(笑)。社員をお客様としておもてなしをしている感じですよね。
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寺田
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設備もそうですが、最近ですと子供をもって働いている女性スタッフのための育児スペースなどもあります。あと当然、世界各国からスタッフがきているので、イスラムの方のためのお祈りする場所とか、食事もそうですけれど。GMたちが必ず言うのは、自分たちが一番大事にしているのは、客ではなくてスタッフだと。
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池野
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働く環境の整備の大切さを知っているのですね。
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寺田
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甘やかしているわけではありません。スタッフがどれだけ気持ちよくホテルに誇りを持って働いてくれるかによって、その気持ちがお客様に通じる。それによってお客様が感動し、ここは素晴らしい、居心地いいとなって喜んでお金を落してくれる。お金の話はいやらしいですけれど、経営が回っていくというのが企業として重要。そういう意味では正しいことです。
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池野
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GMも徹底された教育を受けてきたのでしょうね。
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寺田
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そうですね。本当に素晴らしいGMたちはGM室にまったくいません。いつもちょこちょこ出回ってホテル内をチェックしています。フロントが忙しい時は率先して荷物を持ったりとかしていますよ。
もうひとつ私が感じているのは良いホテル、良いレストランは良いお客様が作るということ。素晴らしいお客様が時に叱り、時に苦情も言い、でも、ほめあげて通ってくれることによって、どんどんスタッフのスキルがあがってくる。そういう素晴らしいお客様のためにどうすれば良いのかということをきちんとホテルが教育をして、スタッフが育つんですね。
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池野
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クレームの対応次第でもっとファンになってくれることもありますよね。
また、一流ホテルに行くには、自分もある程度の心構えが必要ですよね。ホテルの品格に合った自分でないと本当にフルに楽しめないですよね。
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寺田
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緊張しちゃいますよね。
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池野
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寺田さんもおっしゃったように、自分に自信がない時はなかなかそういう良いホテルには行きにくいですし。
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寺田
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もうビジネスホテルでいいやとか。自分の気持ちのバロメーター的なところもないですか?レストランにしても。気合い入れて高級レストランへ行くのと、気持ちが後ろ向きの時は普通に入れるファミレスでいいやとか、コンビニにしちゃおうかとか(笑)
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池野
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ワインと似ていますね。ワイン飲む時もちょっと気合いを入れて飲むぞ! という時と、今夜は疲れたから楽に飲めるもの! とか気分によって開けるものが変わってきますし。
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寺田
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でもほんと、そうやって楽しむスキルが身につくと、ホテルライフとかワインを楽しむっていう時間や空間も自分の人生の中ですごく大事な時間になりますね。それはやはり経験を重ねていくことによって見えてくるものだと思います。
これは20代ではなかなか難しいと思います。でも、一流のホテルが素晴らしいのはお客様を選ばないことです。1泊100万円のスイートルームに泊まるお客さまも、レストランで1杯コーヒーを飲むお客さまも一流になればなるほど変わらずに同じスタンダード・スキルでおもてなしをしてくれます。
1杯のコーヒーでも税金、サービス料が入ると2000円くらいになってしまいますけれど、その価値はあると思います。洗練されたプロのスキルを身に付けたスタッフがサービスをしてくれる。彼らの所作を見るだけでも勉強になるし、ピシッとプレスされた真っ白なリネンのテーブルクロスや白磁のカップ、シルバー、そういう本物を体験するためには2000円は惜しくないと思いますね。
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池野
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本物を体験するためには欧州でしょうか。
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寺田
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歴史あるホテルという意味ではヨーロッパ、特にフランス、イギリスは素晴らしいホテルがありますし、素晴らしいお客様が来ていらっしゃいますね。アジアでも、先ほども言ったラッフルズやペニンシュラなど素晴らしいホテルはいっぱいありますし、ヨーロッパのサービスとは違うアジアンホスピタリティ、やわらかいもてなしでそれはそれで居心地がいいですよ。
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池野
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最近の著書『泣くために旅に出よう』を読ませてもらったのですが、サクサク読めて気持ちいいエッセイですね! 略して涙旅(るいたび)と呼んでいらっしゃいましたが共感する部分がすごく沢山ありました!
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寺田
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都会で暮らしているとものすごくがんばっている女性たちをよくみかけるんです。街中でもつらそうな顔をしていたり、泣いている人もいる。20〜30代の頃に私も同じような経験をしてきたからその気持ちがよくわかる。
旅っていろんな出会いがあり感動することが多いじゃないですか。自然にきれいな涙が流れるときがある。だから、どうせならちょっとリセットするつもりで旅に出て思いっきり泣くのもテーマとしていいかなと思ったんです。
失恋の時でもガンガン泣くと、意外にすっきりしますよね。泣くって、実は気持ちがいい。実際、心理学的にも気持ちが落ち着いてデトックスできると言われているので、だったら終電なんかでつまんない涙を流すのではなくて。
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池野
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知らないうちに涙があふれていた、みたいに…。著書のなかのアユールヴェーダの施術のくだりにもありましたね。
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寺田
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施術していると涙が止めどもなく流れるんです。
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池野
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アユールヴェーダに精神的デトックスも兼ねているなんて、私、初めて知りました。
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寺田
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泣くための旅のストーリーは、ひとりひとり違うと思うんです。その時の自分の感情や、どういう環境にいるかによって全然泣くベクトルが違うと思うので、ぜひ皆さんにも旅に出ていただき自分だけの涙旅ストーリーを作ってほしいと思っています。
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池野
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ひとつのエッセイが終わるともったいなくて次に進めないっていうか、寺田さんの文章・・・失礼ながらすごい上手だなって思って(笑)。
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寺田
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ありがとうございます。四半世紀やっていますから(笑)。
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池野
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その場の情景を思い起こさせる。目の前にあるかのように、スクリーンのようになってくるので、読み終わるとたった数ページでも少し疲れてしまって(笑)。たとえば冬のフランスのストーリーも風景や温度も感じながら読んでいるんです。自分の原風景も重ねて。で、4、5ページ読むと次はタイだったりして(笑)。自分は移動していないんだけれども、行ったことのある国だったりすると想像できるので遠いなーとか、湿度があってめちゃめちゃ暑いなとか、勝手に思ったりして。少し時間を置いてからゆっくり読むのがオススメです。
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寺田
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この本はガイドブックでもあり、エッセイでもあるので自分の気になる国から読んでもいいし、気になるタイトルからでもいいと思っています。また、本の中の表現として私が心がけたのが、旅の肌ざわりです。
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池野
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旅の肌ざわり・・・?素敵な言葉ですね!
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寺田
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カタログ的にならずに、三次元の立体的な空間が二次元の文章からどうやったら喚起されるかっていうのをものすごく気にしています。
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池野
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匂いまで感じそうでした(笑)。
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寺田
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肌ざわりってまさに五感のことで、自分の指とか手で触れる感覚。あとは、匂い。音はyoutubeなどで今の時代、分かりますが、匂いはその場所に行かないと実感できない。空港に降りると場所ごとに全然匂いが違うじゃないですか。
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池野
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違う違う(笑)
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寺田
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異国の匂いに、あ~海外、来たなって思いますよね。熱帯のアジアだと、熟れたトロピカルフルーツのようなモワっとしたモイスチャーな匂いだったりとか。
かつてオーストラリアに住んでいたんですが、シドニーの空港に降り立つとほのかにユーカリの香りがするんです。車で1時間くらい行ったところに世界遺産のブルーマウンテンズっていう場所があって、そこはユーカリの森でたぶんそれが風に乗って香るんだと思ってます。
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池野
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あ、素敵!!
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寺田
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あと、五感、シズル感が大切だと思うのでBGMはいらないと思うんです。例えばホテルだったらグラスがふれあうきれいな音とか人の話し声や笑い声、そういうものが相乗効果でひとつの空間を演出する。そこには音楽はいらないと思います。たとえどんなに素晴らしい音楽でも。
南の島に行けば潮風、ビーチに打ち寄せる波やヤシの葉ずれの音、ちょっと遠くから聞こえる子供たちの声とか。あるいはバーでバーテンダーがシェーカーを振るリズミカルな音とか。そういうものこそが旅の本質、そこにいることの意味であるはずだと考えます。
だから文章もなるべく、自分という存在を排除したいと思っています。読んでくれた人がその場所に自分を投影して、「あっ、ここに行きたい」って言ってもらえるようなそういうものをイメージさせたいんです。だから私自身は不要。
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池野
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今の言葉の中で、私も・・・ちょっと、あっ同じ!って思ったのが、ワインを作る時、私も自分がいないワインを作りたいなって思って作っているんですよね。ワインが勝手に自分でしゃべり出してくれるような、私が何も言わなくてもしゃべってくれるようなワインがいいな、と思っていたりするので今、とっても共感しました!
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寺田
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一緒ですね。旅もそうですし、ワインもそうだと思うんですが、味わう人、体験する人によって同じ経験でも思うことは全然違うはず。もちろん、こっちとしてはすべてを注ぎ込むんですけれども、そこに自分自身はいらない。これを飲んで味わっていただければわかるし、わかって欲しい。それはまさにひとりひとりのストーリーだと思います。そうじゃなければワイン造りも文章もただの自己満足になってしまう。Me,me,meなMeイズムな感じ。
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池野
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あ、そういう表現するんですね(笑)
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寺田
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見てみて!私がここに行ったの!わたしが造ったの!これが私!って(笑)。そんなもの誰も喜びませんよね。
でも、先ほどのお話を聞いて、このワインの透明感とかきれいな感じって、たしかに私が表現したいものと同じだと感じました。私は池野さんのワイン中でも…ほんとにシャルドネがすごく好きで。池野さんが、畑を作り始めた時にうかがわせていただいたという、そういう思い出があるからかもしれませんが。だから、これを飲むたびにあの「猫の足跡畑」の風景が浮かぶんです。
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池野
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今は新緑のすごくきれいな時期ですよ。
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寺田
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最初、なんにもなくて、そこで一人で池野さんが、細い身体で1本ずつ小さな苗木を植えていて…。それからトラクターに乗って登場したのが印象的で。
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池野
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トラクターとか動かしてやっていましたね(笑)
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寺田
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そうそう。施設もどんどん、どんどん出来あがってきて。こうやって人もブドウ畑もワインも育っていくんだなって思った。あれから何年ですか?
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池野
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2007年に最初に植えたんです。なので、今年で9年目ですね。
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寺田
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あそこの土地にこれだけのポテンシャルがあるっていうのは、わかってて選んだんですか?
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池野
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いえいえ。もちろん調べられる範囲で過去にさかのぼって気象条件を調べてはいます。土地に勾配もあるし、水はけもいいですし、この土地に合わせたブドウを植えてみようと。自分で分かる範囲はやりました。でも、やってみないとわからないっていうところがあって、とりあえず勉強したことは全部適合させて、五感をすべて使って、体力も持ちうる限りの最大の力を使って立ち上げてはいるんです。それがその後どうなるかっていうのはほんと、神のみぞ知るっていう感じで(笑)。
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寺田
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まさに神が選んだ場所ですね。
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池野
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寺田さんは海外をほんとに、もう津々浦々行っていらっしゃってその中で私が気になったキーフレーズが「サファリ・アンド・ワイン」。ロマンチックな響きですね。
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寺田
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それ、南アフリカなんです。サファリをした後にロッジに戻り、冬場は肌寒くなるので焚火をたいて、南アのワインを開けるという。プライスレスっていうとコマーシャルみたいになっちゃうけれども、かけがえのない体験ですね。
あと、私はオーストラリアに住んでいたので、週末は車で郊外のワイナリーへよく行きました。季節のいい時にはコンサートを開催するワイナリーも多いので、のんびりピクニックも兼ねて。そういうものを楽しみながら気に入ったワインを買って帰る。で、そのときの空間、場所を思い出しながら家で開けて飲む。
ワインはその時の旅の記憶がよみがえるという、まさに記憶の装置をカチっと入れてくれるものだと思います。
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池野
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まったく同感です。
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寺田
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ワインに限らず、他のお酒にしても食材にしてもですが、やはりそこの場所でいただくのが一番ですね。
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池野
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そうですね。特にワインは旅をしないと言われていますし、食材も鮮度が違いますしね。
寺田さんはワインの産地に行けばワインを飲んでいるっていうことでよろしいですか(笑)
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寺田
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もちろんでございます!(笑)。『フランスの美しい村を歩く』の取材時はずっと自分で車を運転していたので昼間は我慢していました。でも、村のレストランでランチにみんなおいしそうにワインを飲んでいるんですよねぇ。南仏の方へ行った時はロゼとか。あれは本当においしそうでした。
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池野
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キリキリと冷やしたあのロゼですね。
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寺田
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そうそう。だから取材時の一番の楽しみは夜。ホテルにチェックインして車を置いて、町に出て、さぁ何を飲もうかってなる。ビールの時もあるしクレマンやシャンパーニュのような泡の時もあるし、とにかく最初の1杯・・・この一日はこの1杯のため。今日も一日・・・お疲れ自分!みたいな(笑)
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池野
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(笑)あれ、寺田さん一人で車を運転されて取材されたんですか?
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寺田
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そうなんです。もう、すごい大変だった。一日、7、8時間運転する時もあって(笑)
本の中の地図でポイントしたところ全部回ったんですよ。
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池野
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1回の取材で、ですか。
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寺田
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3回に分けて行きました。今回はミッド・ピレネーとアルザスのあたりとか、毎回、目的の場所は決めてあったんですが、紹介したい村はそれでは拾いきれなくて。距離も離れているので。しかも、ご存じのようにコートダジュールの「鷲の巣村」みたいな、とんでもない高い場所にあるところもあれば、谷底にあるような小さな村とかもあるんです。
しかも手違いでマニュアル車になっちゃったりして、久しぶりにやりましたよ、マニュアルでの坂道発進(笑)
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池野
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鷲の巣村の坂道発進は厳しいですね。サイドブレーキ使用必須(笑)。
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寺田
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また、ピターッと駐車するとき車つけるじゃないですか。
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池野
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はい。前後ぶつけてスペースを作って発進したりするのよくみかけました(笑)
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寺田
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あと、飛ばしますよね、フランス人って。
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池野
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はは。飛ばしますね。どんな古い車でも120キロとか出しますよね。古い車でも壊れそうになりながら!!近寄らないようにしていました(笑)
寺田さんが欠かさず持ち歩く旅の必需品
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池野
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話はかわりますが、年代別でおすすめの旅のスタイルというのはありますか?
例えば私は10代の頃は一人旅をしていたりしたんですよね、バックパッカーのような姿でユースホステルに泊まったりしていました。今、思うとあの頃やっていてよかったって思いますね。今でもできると思いますけれど一流ホテルっていうのもまた、興味があって。
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寺田
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わかります。貧乏旅行は若い時の方が無理なく楽しめるので、お金かけない旅はどんどん若い時にするべきだと思うし、人生の財産です。旅を重ねていくことで旅の振り幅が大きくなってくるのがいいですよね。
例えば50代、60代、70代になっても普通にゲストハウスでいろんな方と交流して楽しめるのはすばらしいですし、逆に、年齢にあった一流ホテルや名門旅館に滞在して満喫するマナーやエレガンスもある。そんなスキル、幅を持ちたいですね。
そのためには、やはり重ねていくことが大切。いきなりは無理なので、重ねてきた経験値が最終的には物を言うと思います。今、私54歳ですけれども、すごく面白いのは、今まで蓄積してきた旅の経験とか、そこから得たいろんな情報や知識、そういったものが普段のいろんな方との話の中でとても役に立っている。さまざまな話に対して、それを受け入れられることも、それに対して思いを返すこともできる。そういう意味で歳をとった時に、人生がもっと楽しくなるものを、今まで私はずっと少しずつ集めてきたんだな、って今、すごく実感しています。
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池野
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どこの引き出しでも開けられる、誰とでも話をあわせられる、ですね。
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寺田
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はい、それが出来る自信はありますね。まだまだ学びたいという意識もあるし、興味…好奇心ってすごく大事なので、それもなくしてはいない。たぶんその好奇心がなくなった時点がリタイアする時期だと思っています。
若いうちにいろんなことにチャレンジする。それはなにも旅だけじゃなくてもいい。本を読むとか、映画を観るとか。そういったものの積み重ねが最終的に自分の人生をより、もっと豊かにしてくれるのだと実感としています。
今はネットで検索すれば何でも情報は手に入りますよね。でも、そうじゃなくて、やっぱりその土地に行ったり、いろんな方と話をしたり、聞いたりした経験がすべて自分の中にインプットされていく。ネットなど外部の情報じゃなくて多様な知識が自分の中にあることがすごく楽しいんです。
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池野
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楽しい、と素直に言われると意味もなく「あぁ、よかった! 」と嬉しくなります(笑)
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寺田
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旅という仕事を与えてもらえて心からありがたいと思っています。だから、それを今は還元したいんです。若い人でもいいし、まだ一人旅はちょっと、お金が無いっていう人もいるでしょうが、それぞれの人に合った旅を提案したい。ワインと一緒かもしれませんが、旅にもスタイルがあります。別に海外旅行に行かなくてもいいんです。普段降りる駅をひとつ手前で降りて歩いてみるとか、ちょっと郊外を訪ねてみるとか。いつもと異なる新しい体験、そこから必ず何かしら出逢いがあり、吸収するものがある。そういうことすべて含めて旅だと思います。
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池野
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寺田さんはいま、東日本大震災の復興支援等いろいろ活動をされてますが、やっぱりそれも今、おっしゃった還元していきたいっていう気持ちのひとつでもあるのでしょうか。
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寺田
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旅をしているといろんな場所に知り合いができるわけです。そうすると熊本の地震の場合もそうですが、漠然と大変だと思う以上にあの人たち大丈夫なのかとか、あの場所はどうなっただろうとか。より親密な気持ちでそこのために何かしたいという想いが生まれます。で、何が出来るか突き詰めていったら観光客が訪れる本来の美しい場所に戻ることが大事なのだと考えるようになったんです。「観光は平和産業である」とよくお伝えするんですが、そういうことです。それをトラベル・ジャーナリストとしてどう発信することが適切なのか。それは常に心がけています。
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池野
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一番の支援はその場所に、観光客が戻ってくることいでしょうか。
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寺田
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そう思います。寄付なども、もちろん大事ですけれどもモチベーションとして何がすごく強いかっていうと観光で人が戻ること。地元の方が喜ぶんですよ。来てくれた、って。「こんなときにほんとごめんなさいね、ありがとうね」って。自己満足かもしれないですけれども、その方々のはげみになったらいいなって思っています。自分が泊まって、ご飯食べて、お酒飲んで、楽しく観光して落としたお金が地元の経済基盤を支えるわけですからこんなうれしいことはありません。だから、変な正義感や罪悪感は不要。ただ、純粋に観光客として遊びに行けばいいんです。
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池野
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遊びに行くっていういつもの感じでいいんですね。
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寺田
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そうです。復旧が終わってある一定の時期が過ぎて、これから復興して進んでいかないといけないという時になったら、ぜひ観光に行ってください。
2013年に東北に行ったときにすごく印象的なことがありました。
一眼レフカメラを下げて、ひとりでバックパック姿で石巻周辺を歩いていたんです。するとおばあちゃんに、「ボランティアの方ですか?」って聞かれたんですよ。そういう格好してたんで(笑)。まだ、ボランティアさんたちも多い時期だったですし。なので、そうじゃないんですって、ちょうど春だったんですけれど、「桜を見に来ました!」って言ったんですよ。
するとおばあちゃんの顔がぱあっと明るくなって。「あー、そうなの!ここはね、ほんとにきれいでしょー。津波でね、だいぶ流されちゃったんだけどね」ってうれしそうに話しはじめてくれて。さらに、「そう言えばあっちの公園で咲いたって誰か言っていたから行ってごらんなさい!」って。そのときに、ああ、これでまちがっていないんだな、って。
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池野
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嬉しかったんでしょうね。
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寺田
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そうなんです。ボランティアさんたちにもちろん感謝もしているけれど、震災とはまったく関係なく観光=遊び、美しい東北を見に来たっていう私の存在がうれしかったんだと思います。
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池野
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それが皆さんの復興の力にもなるんですね。未来が見えてくる。前に進む道すじが見えてくるのですね。
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寺田
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それが出来るとはおこがましいですし、思ってはいないんですけれど、もしそうであれば嬉しいなと。だから、みなさんどんどん観光に行きましょう。で、美味しい地元のお酒、ワインを飲みましょう(笑)!
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池野
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そうですね(笑)、日本のワイン飲みましょう!
「旅に出よう!」寺田さんと話終えると久しぶりにそんな衝動に駆られました。海外を渡り歩いていた頃のあの時のトキメキや高揚感、ずっと長い間忘れていたものでした。寺田さんの話から記憶に残る原風景が匂いや音をともなって立ち上ってきたからかもしれません。
正直で飾らない語り口、豊かな表現とイマジネーション溢れるコミュニケーションのチカラ、穏やかでいてエネルギッシュ、優しい瞳に映る確かな真実、抜群の行動力。寺田さんを表現するにはまだまだ言葉が足りないような気がします。
講演、ラジオ、新聞、雑誌、そしてインターネットなど多くで活躍中ですが、これからも豊かで確かな目をもった寺田さんならではの上質な大人の旅の提案を続けていかれるのでしょう。
「観光は平和産業」とおっしゃる通り、知っているではなく識るために旅にでることの大切さを教えてもらったような気がします。
撮影協力:コンラッド東京 チャイナブルー
URL: www.chinablue.jp
旅歴25年。訪れた国は80ヶ国ほど。女性誌、旅行サイト、新聞、週刊誌などで紀行文、旅情報などを執筆。
独自の視点とトレンドを考えた斬新な切り口には定評あり。
日本の観光活性化にも尽力。山口県観光審議委員、青森県の観光戦略アドバイザーなどを務める。
著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)」、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、
「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。