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池野:
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ご無沙汰しています。今回は北海道に行かれてたのですよね。
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谷口:
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昨日戻ってきました。いや、今回も楽しかった!今日は山の道具もパッキングしたまま持って来ちゃいました(笑)
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池野:
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それにしてもケイさんからお話を聞くたびにハラハラドキドキです。もう冒険は終わって還って来ているのに(笑) ケイさんを知れば知るほど遠い存在に思えてくるんですよね。凄すぎます。
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谷口:
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美映さんは山に登らないから特にそう感じるのかもしれませんね。
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池野:
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去年、2014年の春だったかアラスカで1ヶ月氷河生活をするというのをお聞きして、山の事が分からない私は不覚にもMie Ikenoワインをそこで飲んでもらおうとお渡ししようとしたんですよね!
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谷口:
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そう! すごい嬉しかったんですけれど(笑)
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池野:
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でも荷物が沢山あるからダメなんですと言われて断念。今思うと恥ずかしいんですけれど、氷河生活って私の中ではスケートリンクになった湖みたいな広い所でテントを張ってワカサギ釣りをするようなイメージしかなかったんです(苦笑)。
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谷口:
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導入のイメージとしてはそんな感じです(笑)。
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池野:
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そこから想像が飛躍しないんです私。ずっと同じ場所にいるなら夜はワインも必要なのかと。
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谷口:
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できる事ならそうしたかった(笑)
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池野:
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帰国後にアラスカの写真見せていただいた時にとんでもないことに気がついたんですよね。
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谷口:
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ちょっと違ってました?
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池野:
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ケイさんワカサギ釣りどころではなくて、氷の山に登ってたんですよね!
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谷口:
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でもベースキャンプはワカサギ釣りでしたよ。自分ではワイン断ったのはよかったと思ってます。「とても貴重なワインをありがとうございます」ともらって家においていく事もできたけど、これから行くところはそういうところではないんだと言う事を美映さんに伝えたかったんですよね。知ってほしかったから素直に持っていけないんですと。アラスカでの同行者には「何で持ってこなかったの?」と言われましたけど。
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池野:
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ホント私素人ですね。お会いするたびにケイさんは自分の想像を遥かに超えた次元にいることを思い知らされます。ほんとに。
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谷口:
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刺激的でしょ(笑) でも私は特別な事はしてないんですよ。
自分が見ようとしていない世界だから特別に見えているだけなんです。だからちょっとびっくりなのかもしれないですね。
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池野:
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ちょっとではなく、激しく(笑)。もともとケイさんは山岳部かと思っていたら、大学はサイクリング部だったんですよね。
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谷口:
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そうです。キャンプ装備を背負ってツーリングで旅をするという部でした。山があると登るというような。同じ部のなかでもレースが好きで出る人もいましたけど。自転車も山も同じで競技が好きな人もいますが、私のような旅が好きで初めての風景や人との出会いが好きな人もいますよね。
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池野:
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競技そのものに興味がないのですか。それは登山でも同じですか。
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谷口:
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そうですね。たとえばクライミングとか、百名山を何日で登るというスピードで争う競技もあるんです。競うというのは自分が伸びるために必要な事だと思いますが、それは自分の弱みでもあるかもしれないんですけど競技には目を向けられないんです。競うのならば自分自身と競えばいいと思うんです。
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池野:
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それすごくよく分かります。私も海外はもとより国内のワインコンクールにも出さないんです。優劣をつけるとは違うところで自分のワインを感じてほしいと思ってたりするので。
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谷口:
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山登りは何の役にも立たないけど、ワインは欲しい人の役に立つ。そこを除いたとしたら造り出しているものは似ているなと思ってます。何か造って競う人もいれば自分にしか造れないものを造るのに喜びを見いだす人もいますよね。百万人にひとりでも自分と同じ感動を味わってくれる人がいれば幸せだなと思える価値観が、私と美映さんは同じだと思いますね。
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池野:
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ケイさんとまったく同じ体験を普通の人がするというのは難しいと思いますけど、別に同じ山の高さとかではなくて同じモチベーションで感じてもらえるというのであればいいんですね。
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谷口:
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山で言うと私にとっては高さとか関係なくて、そこでどれだけ凄い冒険ができたとか、基本的にソロでは登らないので自分と仲間にとってどれだけハッピーな時間が過ごせたか、クリエイティブだったとか、ほかのだれよりも楽しかったというのが凄く重要になってきますね。
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池野:
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ケイさんの感動をみんなで共有できると素敵ですね。
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谷口:
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それがなかなか難しくて…、今でも山登りは自己満足の世界だと思っています。以前は他の人と共有しようという想いは全然なかったんです。でも今は違ってきました。誰も見た事のない景色を見たり、人の登った事のない山に登ると、それを独り占めするのはずるいなと思うようになりましたね。
それは写真で説明するのか、映像なのか、こういう話なのか、文字なのかいろいろスタイルがありますが、そのことで誰かがもっと面白い事をやろうとたとえば思ったりとか、モチベーション下がっていた人が上がったりとかそういう場面に何度か出くわしたんです。そんなこともあって、自分が山登りしているのを自己満足で終わらせるのは、自分の生きている証としてもったいないなと思い始め、ならば共有しようという意識に変わっていったんだと思います。
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池野:
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全国新聞のコラムでもお見かけしますし、岳人などの寄稿も拝見しました。
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谷口:
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文章を書いたりとか写真をみせたりとかしてますが、「きれいだね、凄いね」とかいっているよりもっと深いところでパワーを少しでも共有できたら本望ですね。
左上・飛騨尾根、右上・アラスカの氷河上にて。登りたい壁を偵察する、左下・Kamet southeast face、中下・朝焼けのDickyとMoose、右下・Nocturne上部雪稜
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池野:
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私一番パワー共有してもらっているかもしれないです。最初にお会いしたときにはケイさんのこと全然知らなくて、一枚写真を見るたびに凄い反応してましたよね、私。「えー! あり得ない!」って(笑) この前映画「クリフハンガー」みたいな断崖に立っているのがあったじゃないですか。ちょっとバランスを崩したら滑落しそうな、瞬間にして手に汗握る写真。あれは国内ですか。
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谷口:
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あれは北アルプスの穂高岳の岐阜側なんですよ。
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池野:
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思い出しただけでホラ、もう手に汗(笑) 登山する方はみんな行けるようなところですか。
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谷口:
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あまり行かないですね。そういってもらえると嬉しいですね。ヒマラヤであろうと日本であろうと凄いと思えるものはどこにでもある。自分でもそう思うし、一枚の写真を見てそう感じている人が目の前にいるんだからやっぱり日本の自然はすごいなと。はっきり言ってヒマラヤにわざわざ行かなくても日本でもっとすごいことできるかな、と私は思うんです。あの写真綺麗ですよね。
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池野:
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キレイっていうよりは…。断崖に立っているのがケイさんですよね。知床の写真は、雪山の上に2-3人いて眼下には流氷が流れてるものでしたね。ちょっと足を踏み外すとクリオネとダイブみたいな状態。
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谷口:
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あれは感動しましたね。初めて流氷を見て。
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池野:
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私も流氷をあんな上から角度つけて見ている人たち初めて見ました(笑)
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谷口:
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最初は流氷の上を歩きたかったんですけど、さすがに流されてしまいますしね。
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池野:
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ケイさんは私に写真こそっと見せてくれますよね。
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谷口:
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撮ってはいるんですけど、あまり人には見せてないですね。
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池野:
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もっと公開したらケイさんが命がけなのがよくわかるんじゃないかしら。それがいいとか悪いとかは別にしてですけど。山に出かける前は神社にお参りしていつも出発しているのも知っています。
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谷口:
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そう。大きな遠征をするときには気持ちを改めてお参りしてます。何年も山に行っているうちに日本の山はあちこちに祠があって神様がいたり、村にも道祖神がいたり、すごくそういう事に気付くようになりましたね。昔から日本人は神様に守られているんだな、と。今は日常的に神社や祠があればお参りしてますね。お邪魔します、という意味で。
私は自然の美しさが好きで山に行くけど、人が亡くなるような厳しさもありますよね。亡くなる人と生き残っている人の差が何なのかは分からないんだけど、自然に対して真摯な気持ちを忘れちゃいけないな、といつもいつも思っています。その忘れないということのひとつがお参りなのかもしれないですね。今日もみんなが山で事故に遭わないようにという気持ちを一日でも忘れちゃいけないと思ってます。
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池野:
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さきほど神社でケイさんお参りしてたとき、私は「ケイさんが今後も無事に還ってきますように」って背中越しにお祈りしてました(笑) 山は日本人にとってスピリチュアルな場所なんですね。ケイさんが本格的に山に向かったのはいつ頃からでしょう。
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谷口:
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小さい頃から山に行くのは好きだったんですけど、ロープを使ったり、雪山に登るとかするようになったのは大学卒業して山岳会に入ってからですね。
知識も経験もないのに雪山に一人で行くのは危ないと気付いて、山岳会できちんと学ぼうとしたんです。今振り返れば自分は出会いの運がいいな、と思うんです。その時のお陰でたくさんの山に登れている。すべて出会いのお陰です。海外の山に行く時も偶然の出会いからでした。行きたくても行けない人もたくさんいます。
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池野:
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でもそれは偶然ではないと思います。人の運はどんな人にも平等にあると私は思っていて、それをチャンスだと思うか思わないか、手を伸ばすか伸ばさないか、掴むか掴まないかだけの差であるように感じています。
自分の準備ができていてさらに好奇心が上回っていれば出会いや運につながっているのではないかと思いますし。だからケイさんはちゃんとアンテナを張って運をつかみ取ってきているんですよね。
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谷口:
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そうかもしれないですね。時間がないから、お金がないからという理由でチャンスは逃したくないと昔から思っていて、同じチャンスは絶対巡ってこないわけだし。受け止めて判断して逃すチャンスはいいけど、できないとかという消極的な理由で見逃すことはしたくなかった。
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池野:
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チャンスを待っている間といいますか、大学を卒業してからは社会人をしばらくされていたとお聞きしました。
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谷口:
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諸事情もあって自分の中で2年と期限を決めてOLしてました(笑)。社会人生活を経験したのはとてもよかったと思ってます。日本社会で生きていく上での最低限のマナーを学べました。だから今のしょうもない生活をしょうもないと気付けるんです(笑)。
海外では必要ないことかもしれないですけど、自分のやりたいことは全部やりたいけど人に迷惑をかけるのはいやなんです。分かってて迷惑をかけるのと、やり散らかして迷惑をかけるのは違うと思いますし。
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池野:
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いつも感心するのはケイさんはいつも電波のないところにいますけど、電波がある所に戻るといつもきちんと連絡してくれますよね。それが約束ギリギリ直前のこともありますけど(笑)。スケジュールの管理もキチンとされていてフリーの立場でありながら、山に登っていてビジネスとして成立している人って私あまり見たことないです。
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谷口:
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フリーで山に登っている人は何かに捕らわれている場合が多いかもしれないですね。でもフリーになる時、こんないい加減な自分がやっていけるか自問自答もしましたよ。
20代で思い切って独立してだいぶ貧乏でしたが、やってみて結果的に今があるのでよかったかなと思ってます。
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池野:
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それでパートナーと現在二人で登ってらっしゃるんですね。納得です。マナスル登頂、エベレスト登頂と続いて2008年にはカメット登頂をしてお二人でピオレドール受賞。ひとつひとつの登頂もまったく凄いことなのですが、登山家の最高の栄誉とされるピオレドール受賞についてここで伺いたいのですが。
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谷口:
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この賞の意味を伝えるのは本当に難しいと思っているんです。ピオレドールは所謂一等賞ではないんです。勝手な私の言い分ですけど、芸術賞だと思っていて、私自身への賞ではなくて登攀に対する賞なんです。
なんでもらったかを解釈するとその登攀が美しかったからだと思っているんです。じゃ、“美しい”ってなんだということになりますよね。
ひとつの絵を見てすごいと思う人もいればそうでない人もいる。私たちが登ったこの登攀のラインを、スタイルを、美しいと思ってくれたという人たちが何人かいたことに私は感動したんです。じつは登攀がむずかしかったとか過酷だったとか楽しかったというのは絶対誰にも分からないんです。そこに他の誰もいってない未踏の地ですから。
山を見たときに白いキャンバスにどんな絵を描きたいかと思ったときに描いたラインが私たちが登った姿であり、軌跡なんです。それを誰もやってなかったということ、なにかあっても誰も助けにこられないような場所で冒険的要素があったこと、無駄を最大限に省いて登ること、つまり山に何も残してこないクリーンなスタイルというんですけど、それが認められてもらった賞でなんです。
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池野:
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それで“芸術賞”といってらしたのですね。よくその意味がわかりました。
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谷口:
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それを分かってもらえる人にピオレドール取ったんですね、といわれると納得いきますけれど、「なんか賞を取ったね。凄いね」だけだと賞が好きなわけではないのですごく居心地が悪いんです。
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池野:
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今お話をうかがっていて驚いたのは私も何か表現するときに絵画を例にだすことがあるんですよね。「シスレーが好きな人もいればダリの好きな人もいるので私のワインがお口に合うといいなと思ってます。」のようないい方をよくしているんですよね。ちょっとびっくりしました!
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谷口:
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美映さんがワインを造っているスタイルと私が山に登るスタイルは似てるんじゃないですか。自分がそういう山登りのスタイルをしているせいで1番という考えがどんどんなくなっていくような気がします。
たとえば数万円もするワインがあるとしてそれが一番かといえば好みがそれぞれなので違うと思いますし、なかなか比べられないですよね。よく質問でどこの国が一番好きですか、と聞かれますが一番はなかなかなくて強いていえば日本かな、くらいです。
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池野:
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そんな数々の輝かしい登攀や受賞をされてるケイさんですけど、ここがターニングポイントだったのかな、という時はありましたか。
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谷口:
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一番最初のマッキンリーかもしれませんね。初めての海外ですごい不安いっぱいで行って、”自分の可能性って自分が思っているよりあるかも”と気付いた遠征でしたね。
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池野:
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以前、共通の友人から野口健さんとエベレストの清掃登山したときに気がついたらひとり先に行っていたと聞いたことがありました。ケイさんすごく登攀が速かったとか。
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谷口:
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いや、そんなことないです。野口健さんとの清掃登山ではシェルパを率いて登山してますから。エベレストは初めてだったので、シェルパやその他大勢のみなさんと山に登るのも初めてのことでした。こういう世界がありなのかと、いままで想像したことのない山の世界を目の当たりにしましたね。自分とロープをつないで登るパートナー以外にもたくさんの人が周りにいる、でも絶対使用人ではないし、なんなんだろうって。
健さんがすごくシェルパに対して敬いの気持ちがあるのが私の気付きでした。私もシェルパといると居心地がよかったんですね。なぜならそれは彼らの山だからです。その土地の人と一緒に山を登る喜びや楽しみを教えてもらったなと思います。チームが大きいからリーダーの健さんの采配の重要さも知りましたね。彼と山に行けば行く程凄いと思いますね。清掃をシェルパと一緒にやることでシェルパ自身の意識も変わったんです。そういう影響力みたいなものを学んだかな。
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池野:
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シェルパと行くエベレストのような登山とケイさんの登山のスタイルはこれほどまでに大きく違うとは思いませんでした。
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谷口:
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いろんな遠征の仕方や冒険の仕方の価値観があって、たとえば南極遠征には莫大な資金が必要なのでそのスポンサーを見つけたりするスタイルがあるけれど、私にとってまったくそのような無駄な時間や行為をすることに興味がなくて自分の持つ能力と財力でできるチャレンジをしたいと思ってるんです。それが他の人にとって何の意味がなくても、自分にとって新たな自分の発見であればいいんです。
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池野:
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自分の発見と一緒に新しい未踏ルート発見のおまけつきですね!
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谷口:
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そうそう(笑) 去年、2014年のアラスカ デナリの4つの新ルート開拓もそれが新ルートなのかも誰にも分からないんです。氷河の場合常に氷が崩れるので山の形は変わるから同じルートは絶対ありえないんですよ。
そのルート開拓ははっきりいってどうでもいいんです。アラスカでは40日間誰にも会わなくて自分たちだけで野菜が凍ったの、雪が降ったのだの、壊れたもの直したり、氷河の上で洗濯したり、風呂の工夫をしたり試行錯誤しながらクリエイティブに過ごして、面白い登攀をして来たね、というのが宝なんです。このことにピオレドール アジアが目をつけたのが意外だったんですよね。40日間すべてを楽しんだ私たちに対して賞をくれた韓国に驚いています。
山の高さとかルートの困難さはほかにやったことがある人がいないから分からないんですよ。そういうのは評価のしようがない。
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池野:
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2014年に受賞されたピオレドール アジアのお話ですね。ケイさんはフランスで審査員もされていましたよね。
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谷口:
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そうなんです。フランスのピオレドールの審査員をやって初めて何かを選ぶ難しさと楽しさを実感しました。自分の中で気付いたことは、最終的にその人たちが自分たちの登攀をどれだけ楽しんだかがプレゼンテーションに現れているのかがポイントだと思ったんです。だからどんなに難しい登攀だったからといって、そこが雪崩の起こるような危険なラインだったりするとぜんぜん偉いとは思わないんですよ。
そういうルートが偉いということを私としては後世に伝えたくないんです。逆にみんなこういう登攀しようよ、というのを選んで後世に伝えたかった。
「楽しくて、危なくなくて、絶対生きて還ってこれる要素がこの登攀のどこにあるの?」と聞いてすぐ答えが返って来るような。
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池野:
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そうしたら、これからもケイさんもっともっと受賞しちゃいますね。
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谷口:
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はは、でもいるんですよ。もっとずっと楽しんじゃってる人たちが山ほど(笑)
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池野:
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フランス人ですか。彼らは冒険好きですよね。なんででしょうかね、世界中で危ないことばかりしてる。そんな中で審査員するケイさんはかっこいいですね。冒険家の巣窟の中でさらに冒険家選んでいるのですから。
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谷口:
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最初にピオレドール受賞した時にフランス在住の日本人の登山関係者にありがとうと言われたんですよね。日本人がようやく認められたという意味だったようですが。複雑ですね。
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池野:
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ケイさんのように自分に素直にまっすぐに登っている姿と認められたいという欲を持ちながら登っている姿では見え方が違うのではないかと思うんです。人種とは別次元で。日本人が認められたというのは違って、谷口ケイが認められたというほうが正しいと思います。
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谷口:
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それはさておき(笑)、私思うのは日本人は外に出た時は周りの目を気にしすぎるのだと思うんです。たとえば英語が下手だからという理由でしゃべらなかったりするじゃないですか。人にどう思われようと構わないので、単語並べようが通じないと生きていけないのだからそれでいいと思うんですよね。きれいにしゃべらないといけないとか、人の目を気にしすぎているから海外でうまく入り込めないのかもしれない。
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池野:
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私もフランス語がぜんぜん話せずに行っているから馬鹿にされるのは当たり前だったし、相手にされなかったですね。授業の教室が変わるのも分からなかったから、前もってお願いする訳です。そうすると40人もいるとひとりくらい親切な人がいて「こっちだよ。」と連れて行ってくれる。ま、そのまま授業聞いても分からない訳ですけど(笑) 嗤われても構わないで、一緒に笑ってた!
能天気なんですよね。
私の話は置いておいて、ケイさんが山登りと同じように大切にしているものってありますか。
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谷口:
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山は好きっていうのは間違いないけど、大切にしているものは別にあるんだと思います。
生きるって凄く難しいと思うんですよね。逆にいうと何もしなくても生きていかれるというのもあるんだけど、どうせ生きるんだったらという考え方があります。
私の場合は欲張りだからいろんなものを見たい、やりたい、というのがあってそれは自然に対してもそうだから、全部連動してるみたいです。自然の季節の移り変わりのようなきれいなものが好きなんです。一日の中だったら朝焼けの美しさだったり、星の美しさだったり…。
自分にウソをつきたくないですね。自分の中に隠しておくものがない状態にしておきたいんです。仕方なくつかなければならないウソがあるとしても人にみせられないウソは嫌だと思ってます。
人がやらないこともやるし、人に文句いわれることも多分やるのかもしれませんが、でもそこには自分なりの理由があって、それを全部さらけ出してもいいくらい自信を持って生きていきたいと思ってます。
だから山登りのスタイルも自信をもって見てほしいと思ってますし、自分の過去を振り返ったときも全部人に見せられるものでありたいなと思います。
ケイさんとの対談を終えるととても清々しい気分になりました。
肩の力が抜けたような、とてもリラックスしている自分に気がつきました。自分が自分でいること、その揺るぎない強さがケイさんの言葉の端々から伝わってきました。そして未知なる世界に身を置くことがこんなにも人の目を美しく輝かせるものかと驚かされました。
美しいものが好きという言葉を聞いた時、美しい魂の居場所を、肉体の心地いい場所を自ら探し求めて旅している、そんな気がしました。
女性として世界初のピオレドール受賞者となっていかに周りが騒ぎたてようとも、まるでそれすらも客観的に楽しんでしまうのが谷口ケイさんのスタイルなのかもしれません。彼女が彼女の思うままの人生を楽しみ続ける限り、微力ながら応援していきたいと思いました。
八ヶ岳南麓在住。山岳ツアーリーダーや野外教育プログラムファシリテーター、
組織開発・人材育成プログラムファシリテーターとしても活躍。
趣味は美味しいものを食べること、美しいものを見つけること。
主な功績
2001年 アラスカ・デナリ山登頂 (6,194m)
2004年 パキスタン・ゴールデンピーク (7,027m/北西リッジ初登)、パキスタン・ライラピーク (6,200m)
2005年 中国新彊ウイグル自治区・ムスターグアタ (7,534m/東稜第二登)、インド・シブリン (6,543m/北壁~北西稜初登)
2006年 ネパール・マナスル (8,163m)
2007年 中国西蔵自治区・チョモランマ (8,848m)
2008年 アラスカ・ルース氷河Mt.Grosvenor他、インド・カメット (7,754m/南壁初登/第17回ピオレドール受賞、よみうりスポーツ賞)
2009年 アラスカ・カヒルトナ氷河、パキスタン・キンヤンキッシュ東峰西壁、中国西蔵自治区・ガウリサンカール(7,134m/北東壁新ルート)
2011年、アラスカ・カヒルトナ氷河/Mt.フランシス/カヒルトナクイーン/カヒルトナピークス縦走、中国西蔵自治区・ナムナニ南面~北面縦走 (7,694m)
2012年 ネパール・ランシサリ北西壁
2014年 アラスカ州デナリでの4つの新ルート開拓により、第9回ピオレドール・アジア受賞